君は世界に一人だけ

君は世界に一人だけ

感じたことと考えたこと

ややエッセイ

妹の彼氏と風呂に入っただけなのに

お風呂ためたから入りなよ。妹の言葉に、わたしは妹の彼氏に目をやった。 「先に入っていい?」妹の彼氏、サトはもちろんどうぞと言った。 サトは明るい色の髪とぼろぼろの手のひらを持つ、美容師の卵だった。サトも、パティシエの卵である妹も、一人前にな…

いつか街ですれ違ったら、お前だってわかる?

その夜、わたしは現実逃避を必要としていた。 翌日から一週間、仕事で強いストレスにさらされる。それはしょうがない。避けようがない。だけどそのためにいま気分が沈むのは納得いかなかった。 シャワーを浴びてよそゆきのワンピースに着替え、キャンドルを…

「描きたい」以外に、なにも必要なかった

十数年前、銀座のギャラリーで開催された『高田明美原画展』へ行ったとき、先生ご本人とお話する機会にめぐまれた。 ギャラリーに足を踏み入れたとき、壁に飾られた原画よりも、中央の小さなテーブルに立つ女性に目が吸いよせられた。先生と気づくのに、少し…

野明になりたかった

入学初日から、うしろの席の女の子が気になっていた。 おとなっぽくて、頭のよさそうな (実際に頭脳明晰で、のちに副生徒会長となる)、よその小学校の女の子。 話してみたい。でも話すきっかけがなくて、プリントを回すときにコンマ2秒、目を合わせるくらい…

名前を呼べないひと

名前を呼べないひとがいる。 あるバンドのボーカルで、私は20年来のファンだ。 この20年ずっと、彼の名前を呼べないでいる。「○○のボーカル」、そうとしか呼べない。 彼の歌を聴きすぎて、ミトコンドリアにも刻まれてしまった。顕微鏡でのぞいたら、一部には…

幸せなんて、わかんない

その日は少しナーバスな気分だった。 そんな時は決まってろくなことを考えない。エレベーターを待っている間、ふと「私にとって幸せってなんだろう?」なんて脈絡のない問いがうかんだ。 幸せ。 「幸せ」の感覚を味わってみたくて、いろんなことをためした。…

19回目のエイプリルフール

白いテーブルランナーの上で、彼のスマートフォンがまた息を吹き返す。 向かいにすわっている彼が、当たり前みたいにスマートフォンに手をのばす。顔をしかめ、指先で手早くメッセージを入力する。どう鍛えればそんなに素早く指が動かせるんだろうと思う。ス…

ダークでメロウな彼女、その小さな棘

折にふれて訪れるブログがある。 更新頻度は極端に低い。一年に数回。一年で二回、なんて年もある。それでも、年にいちどは必ず更新される。私は生きている、と何かに向かって証明するように。 運営者は年上の女性で、中国のある俳優に恋をしている。 中国人…

もう一度アルバムを聴けた日

大失敗しちゃったってエントリを書いた。 めちゃくちゃ落ち込んだし、今も落ち込んでるけど、ひとつだけいいことがあった。 十年以上聴けなくなっていたアルバムを、もう一度聴けたのである。 * * * 20代前半、私はどちらかといえばロックに傾倒していた…