ややエッセイ
「どこから来たの」 渋谷の交差点で信号待ちをしていると、知らないおじさんに声をかけられた。駅名を答えると、おじさんと地元が近かった。おじさんの駅は、となりだった。 「どこへ行くの」おじさんが聞くので、イチョウを見に代々木公園へ、と答えた。す…
秋晴れの鈴鹿サーキットに、そのひとはロリータ服であらわれた。 すごい服だなあ。まじまじと見ていたら、目があった。ロリータ服は立ち止まり、わたしをじっと見る。それから、まっすぐこちらにやってきた。あの、すみません、ナオさんですか。ロリータ服は…
モモ君のうしろにぴったりくっついていったんです、あたし。 まるでついさっきプロポーズを受けたかのように、ミミさんはうっとりと言ったのだった。そうなんだ。わたしはうんざりしながらつぶやいた。 ミミさんとは10年前、Twitterで知り合った。あるK-POP…
なにしろ眠れないの。 運動不足のせい、ぜったいそう。って思ってたのにジョギング、プラス、プールで泳いだって眠れない。何か裏切られた気持ち。 心配ごとは、掘ればばかみたいに出てくる。でもメンタルの問題で眠れないってほど、繊細なつくりじゃないか…
ミカちゃんとはTwitterで知り合った。彼女はあるK-POPグループの古参ファンで、わたしはぺーぺーだった。 ミカちゃんのタイムラインは感じがよくて、愛に溢れている。数千人のフォロワーがいるにもかかわらず、えらぶったところがないのもすごい(わたしだっ…
素敵と思うブログのライフスタイルを丸パクするという悪癖が、あった。10年以上前の話だ。 男女問わず「これは」と思うブログを見つけると、最初のエントリからねとねと読み、同じものを買い、なじみの店に通った。 ほんとうは「昨日、あのお店に行ってきま…
ライブに、行った。 わたしごときが、おそれおおくも、関係者席で拝観した。 だのに、ライブ中、テンションは1ミリも上がらなかった。 たしかに、まわりが気になってしかたなかった。関係者エリアにすわっておられる方々は、微動だにしない。悪目立ちしない…
10年以上前、死んでも行きたいライブがあった。 あるロックバンドの全国ツアーで、チケットは数秒でソールドアウト。もちろん全敗したわたしは、追加公演の東京ドームにすべてをかけていた。 あとにも先にも、これほど参戦を渇望したライブはない。喉から手…
なぜ、彼でなければならないんだろう。 半年ほど前、あるK-POPグループのひとりに目を奪われてから、ときどき考える。 夫には「よくいるK-POP顔」といわれる。 そしてブログに画像を貼っつけでもした日には、こういわれちゃうだろう。 「ああ、K-POPにいそう…
幼なじみで親友。それだけでもレアですが、どちらもイケメン&高身長、おまけにピュア&ピュアとなると、もはや漫画です。 そんな「ノンフィクションでバレーボール漫画が成立しそう」なイケメンコンビの話を、きょうは聞いてもらいたいなと思います。 * *…
「バイクの免許を持ってる」ただそう自慢したいためだけに、十数年前、二輪免許をとった。 バイクの免許をとる、と人に話すと、まずもって理由を聞かれ、そのたびに「モテたいから」と答えた。 わたしは非力で、体もちいさい。そんなのがバイクの免許をとっ…
テレビに出演したことがある。 といっても、二十年ちかく前の深夜帯ミニ番組で、その番組が存在したこと自体、だれの記憶にも残っていないと思う。 そんなミニ番組でも、企画から台本、撮影、編集まで、一本の番組にたいへんな労力が支払われている。見ると…
7年ほど前のこと。夫に「観においでよ」と誘われ、東京ドームへあるライブを観に行った。 座席は1階のバックネット裏。関係者エリアでなく、ふつうの一般席だった。つまり好きにしてよしということで、安心する。関係者席は、緊張するというか、申し訳ないと…
お風呂ためたから入りなよ。妹の言葉に、わたしは妹の彼氏に目をやった。 「先に入っていい?」サトはもちろんどうぞと言った。 サトは明るい色の髪とぼろぼろの手のひらを持つ、美容師の卵だ。サトも、パティシエの卵である妹も、一人前になるために早朝か…
その夜、わたしは現実逃避を必要としていた。 翌日から一週間、仕事で強いストレスにさらされる。それはしょうがない。避けようがない。だけどそのためにいま気分が沈むのは納得いかなかった。 シャワーを浴びてよそゆきのワンピースに着替え、キャンドルを…
十数年前、銀座のギャラリーで開催された『高田明美原画展』へ行ったとき、先生ご本人とお話する機会にめぐまれた。 ギャラリーに足を踏み入れたとき、壁に飾られた原画よりも、中央の小さなテーブルに立つ女性に目が吸いよせられた。先生と気づくのに、少し…
入学初日から、うしろの席の女の子が気になっていた。 おとなっぽくて、頭のよさそうな (実際に頭脳明晰で、のちに副生徒会長となる)、よその小学校の女の子。 話してみたい。でも話すきっかけがなくて、プリントを回すときにコンマ2秒、目を合わせるくらい…
名前を呼べないひとがいる。 あるバンドのボーカルで、私は20年来のファンだ。 この20年ずっと、彼の名前を呼べないでいる。「○○のボーカル」、そうとしか呼べない。 彼の歌を聴きすぎて、ミトコンドリアにも刻まれてしまった。顕微鏡でのぞいたら、一部には…
その日は少しナーバスな気分だった。 そんな時は決まってろくなことを考えない。エレベーターを待っている間、ふと「私にとって幸せってなんだろう?」なんて脈絡のない問いがうかんだ。 幸せ。 「幸せ」の感覚を味わってみたくて、いろんなことをためした。…
白いテーブルランナーの上で、彼のスマートフォンがまた息を吹き返す。 向かいにすわっている彼が、当たり前みたいにスマートフォンに手をのばす。顔をしかめ、指先で手早くメッセージを入力する。どう鍛えればそんなに素早く指が動かせるんだろうと思う。ス…
折にふれて訪れるブログがある。 更新頻度は極端に低い。一年に数回。一年で二回、なんて年もある。それでも、年にいちどは必ず更新される。私は生きている、と何かに向かって証明するように。 運営者は年上の女性で、中国のある俳優に恋をしている。 中国人…
大失敗しちゃったってエントリを書いた。 めちゃくちゃ落ち込んだし、今も落ち込んでるけど、ひとつだけいいことがあった。 十年以上聴けなくなっていたアルバムを、もう一度聴けたのである。 * * * 20代前半、私はどちらかといえばロックに傾倒していた…