君は世界に一人だけ

君は世界に一人だけ

感じたことと考えたこと

妄想の夜はふけて

なにしろ眠れないの。

運動不足のせい、ぜったいそう。って思ってたのにジョギング、プラス、プールで泳いだって眠れない。何か裏切られた気持ち。

心配ごとは、掘ればばかみたいに出てくる。でもメンタルの問題で眠れないってほど、繊細なつくりじゃないから。

もしか、小さいけれども大切な何か、が抜け落ちちゃってるとか。それを取り戻さなければ永久に眠れませんよとか。ああ神さま。

そんなぐあいだったから、ある晩ふと思いついた「ものすっごいこと、妄想してやろう」は、すばらしいひらめきに感じられたのでした。

  *  *  *

ひらめきを得たのと同時に、そっち方面のすべてを長らくほったらかしにしていたのにも気づいてびっくりする。え、枯れちゃった、もしかして。いやいやいやまさか。でも。

そして、ものすっごい妄想、は、いいけど、具体的に何をどう考えればいいのかわからなくてまたびっくりする。

焦る。仕事ができないとか、花を枯らすとか以前の、生きるうえでの基本的能力が、もっといえば生存本能みたいなものが薄いんじゃないかと思えてくる。

みんなはどうしてるんだろう。そっち方面を差し向かいに論議したことは一度もない。世の女性がどうしてるか、まるで知らない。突然、世界から置いていかれた気分になる。

なげいてもしょうない。夜は短い。迷ったあげく、ここはやはりイケメンにご登場願うことにする。

わたしのイケメンはふたりいる。日本人と韓国人である。韓国人アイドルははたち周辺であるから、遺憾千万ながら即刻ご帰国いただく (年の差的に大変きびしい)。

残る日本のイケメンを指名する。ファンクラブに入っているので、このくらいは許されてしかるべきと思う。夜もふけている。気がたっている。強気な気持ちである。

イケメンにご足労願うのだから、うす汚れたせんべい布団では申しわけない。シチュエーションを変える。絵本の中みたいなお姫さまベッドを用意する。うやうやしく天蓋がかぶさっているアレである。

イケメンがやって来る。わたしを見るなりがっかりしている。妄想やりなおし。

見えるのがいけない。部屋をまっくら闇にする。自分の手も見えないくらいの、ほんものの闇である。でもほんとうに相手からわたしが見えていないか、うたがわしい。やりなおし。

イケメンの目にすきまなくガムテープを貼る。しかしさわられるとこちらの年齢がばれる。やりなおし。

何十回かやりなおし、マジックミラー越しにイケメンを眺める案に落ちつく。
腕を伸ばし暗闇をうろつくイケメンにうっとりする。ファンクラブに入っていてよかった。

朝がくる。彼はガムテープをするりと外し、カーテン越しの光に目をほそめる。あくびをして部屋を見まわし、ドアに目をとめる。わたしは息をのむ。ドアをこちら側に押し開いてわたしを見、心底がっかりした表情を彼は浮かべる。

 

気がつくとわたしは泣いていた。鼻水をたらして泣いていた。

ここぞとばかりに、みじめな世界観にひたりきっておいおいと泣く。ひとしきり泣くと、泣くのに飽きた。

やっぱりわたしには、小さいけれども大切な何かが抜け落ちているのだ。それをかちっとはめないことには、妄想もうまくゆかず、いつまでもこうして夜からつまはじきにされてしまう。