君は世界に一人だけ

君は世界に一人だけ

感じたことと考えたこと

おまえはいない

ふと見ると、窓の向こうに誰かが立っていた。

黒い帽子をかぶった男の顔が、凹凸ガラスにぼんやり透けている。窓の向こう側はずいぶん低いらしく、顔から肩あたりまでしか見えなかった。

具合のわるいことに、窓には鍵がかかっていなかった。鍵をかけるより早く、相手が窓に手をかけた。すすっと窓が開く。男は、きたない肌をした外国人だった。いまどき誰もかぶらないような古くさい黒い帽子をかぶり、横縞の服を着ている。白黒の横縞、それもアニエスベーふうの。

こいつ、あれだ。表情のない顔を見て、すぐにぴんときた。13日の金曜日だ、映画の。

相手が殺人鬼なら、いよいよ中に入れるわけにはいかない。だけど金曜日の手が邪魔で、鍵をかけられない。よく見るとそれは人間の手ではなく、シザーハンズみたいに指が刃物でできていた。だけどシザーハンズよりは短くて、刃はにせものっぽく見える。

にせシザーハンズが、窓のすきまに刃を差し入れたまま動かない。と、今度は逆の窓を開けようとする。すぐさまわたしは逆の窓を閉める。あっちの刃がはさまる。同じ攻防をくり返す。らちがあかない。

恐怖を感じないかわりに、焦っていた。何かあるとわたしはすぐに焦る。焦るだけでなく、わきや背中に汗をかく。そんな生体反応、ほかの人は起こらないのだろうか。
落ち着かなくては。わたしは自分にいいきかせた。このままでは永久に窓を閉められない。

「おまえはいない」とわたしは言った。
金曜日の顔はわざと見てやらなかったので、どんな顔をしていたかはわからない。だけど、「え?」というか「は?」みたいな空気は、あったように思う。

「おまえはいない」わたしはくり返した。何度も何度もくり返した。言っているうちに相手を打ちのめしているような気になって、ちょっと気持ちよくなってきた。にやにやしながら、目がさめた。

 

久しぶりに創造的な夢を見たのがうれしくて、夫にことのあらましを報告した。フレディという名前をちゃんと思いだしたことにも満足していた。

ただ映画のタイトルが違っていた。『13日の金曜日』でなく、『エルム街の悪夢』だった (どちらも観たことがないのでえらそうには言えないのだけど、ストーリーはそう大きく違わないんじゃないかと思う)。

せっかくなので『エルム街の悪夢』を画像検索してみる。夢で見たのとほぼ同じだった。横縞のぐあいが違っていたのが、惜しい。
白黒でなく、太めのクリスマスカラーだった。

 

このごろ好きな人の夢ばかり見る。もうそろそろ特技って言ってもいい気がする