2021年10月9日、TM NETWORKの再始動ライブ動画「How Do You Crash It?one」が配信されました。
以下は当日の所感と個人的な日記です。
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早々に日常生活を放りだして、わたしと夫は固唾を飲んで配信開始を待っていた。
オープニングの音が流れて数秒後、夫が「『ELECTRIC PROPHET』……」とつぶやく。
そう? わたしは疑わしげに言う。それっぽい感触の新曲なんじゃない?
「いや……違う」音が重なりはじめ、彼がはっと息をのんだ。「やっぱそうだよ、間違いない。『ELECTRIC PROPHET』だ」
彼に言われて、ようやく気づく。
"っぽい曲" じゃない。ほんものの『ELECTRIC PROPHET』。
声をおさえて、興奮気味に話す。「ねえ、これ……めちゃくちゃよくない?」「うん、いい。いいね、アレンジ」
有機的に動くLEDパネル。たちこめるスモーク。うかびあがるシルエット。重なっていく音。
「すげえ……金、かかってる……」
一個高いんだぜ、あれ。うめくように彼が言った。
後光の差す三人は、タイムマシンから降りてきたばかりのよう。
"三人" を示す三角形にきらめく頭上のパネルは地上を照らす星であり、過去と現在とをつなぐ光のシナプスだ。散らばり、離れ、ふたたび重なりあう。
ぼく以外にはなれないよ
待ちわびた今夜の Kiss
時を越えて Hello Again
「ぼく以外にはなれない」。まるで小室さんみたいといったら、いいすぎだろうか。待ちわびた今夜のライブ。時を越えて、ハローアゲイン……。
わたしはFANKS (TMNファンの呼称) ではない。それでも、オープニングの『ELECTRIC PROPHET』には鳥肌が立ち、泣きそうになった。きっとあの瞬間、多くのFANKSが泣いただろう。
ファンであってもなくても、その想いに共鳴することはできる。待ちに待った瞬間が、『ELECTRIC PROPHET』によって応えられたのだ。
夫いわく「予言どおりになったことを示すため」にオープニングに採用されたのでは、とのことだった。
予言ってなに? と聞くと、そんなことも知らない奴と口をききたくない、と言われて我々は揉めた。
『Get Wild』のアレンジもシンプルでよかった。
Bメロのアレンジはアリかナシかで揉め、「ナオちゃんが言ってるのはゲットワイルドエイティーナインだよ」とわけのわからない批判をされてまた揉めた。
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なによりおどろかされたのは、小室さんの存在だった。
「ねえ、あの美少年はだれ……?」
わたしは大まじめにそうつぶやいた。夫が無感動な声で答える。
「60を超えた小室哲哉です」
「なにをどうしたら、あんなに儚いひとになるの。どうなっちゃってるのよ。消えちゃいそうじゃない……」
何か、見ているだけで胸が切なくなる。わたしは彼がどのようなアーティスト・イメージで活動しているのかを知らない。でも今回の配信では「美少年」以外に、言葉が見つからなかった。
変わらぬ美声のウツ。あまりにも変わらなすぎてアンドロイドじゃないかと思えてくる木根さん。キーボードの美少年。
若い人に、いまのTMを観てほしい。小室さんの姿に衝撃をうけて、オレも、わたしもああなりたいと感じてほしい。有料配信だけでは、なんとももったいないと思ってしまう。
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1期のTMNの曲は、パートによってはオリジナルそのままではないかと思わせる音が使用されていた。
過去の曲を破壊して再構築するのではなく、原曲の核はしっかりと守ったうえで、"いま" のTMNを提示している。原点回帰の印象を受けるアレンジだった。
正直いって、こんな力が彼らに残っているとは想像していなかった。
ひとことで言うと、「完敗」だった。
スーパー辛口の夫でさえ、「いや、よかった。やられた」と絶賛した。
彼も、わたしも、TMは1994年で終了したままだった。以降の曲は知らない。そんな我々でさえ、「いいものを観せてもらったね」と深く感動させられた。FANKSではなおさらだろう。
「この流れでMCはぜったいにない。やったら失望する」
夫が予想したとおり、彼らはひとことも言葉を発しなかった。
言葉ではなく、彼らは、彼らの音楽をもって宣言したのだ。
終わりのはじまりじゃない。これが、新しいはじまりなのだと。
セトリ
1. ELECTRIC PROPHET
2. I am ~ How Crash?
3. ACTION
4. 1/2の助走
5. Green days
6. Get Wild
7. We love the EARTH
8. SEVEN DAYS WAR