君は世界に一人だけ

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感じたことと考えたこと

それは、火星にかっとばすくらいの | ヒロソロ2021@Zepp Tokyo 【日記編】

2021年9月24日、HIROのソロライブへ行きました。

レポート的なものは先日アップしたので、今回は個人的な日記編を。いつにもましてだらだらと長いため、お時間のあるときにお付き合いください。

(いっこのライブで、なんぼほどブログ書くねんってかんじですけど、書きます)

* * *

着慣れない服を着ると、心のありようが変わる。ガラスに映る自分を、ちらちら盗み見たりもする。

歩くたびに、ふわふわ浮かぶワンピースの裾。ちょっと、いやかなり気恥ずかしい。自分が女であることを思い出した気分だった。

明るい色のワンピースと派手なバッグは、チケットが取れたときに衝動買いしたもの。わたしはふだんモノトーンのパンツスタイルで、衝動買いはぜったいに・ぜったいにしない。

それでも買った。どうしても明るい服でライブに行きたかった。
accessに出戻ったころの願い、「明るい色の服を着てみたい」を一年越しに叶えたのだった。

* * *

退社を早めて、髪を切りに行く。いつもの美容室で、いつもの美容師さんに、いつもの髪型にしてもらう。
ドライヤーで髪を乾かしながら、美容師さんが「このあと、どこか出かけられるんですか?」と聞く。

「ライブです。貴水博之さんの」
「うーん。ごめんなさい、ぼく知らないなあ」
accessってご存知ですか? そのボーカルです」
「ああ! 知ってます。なるほど……っていうか、access知ってる世代なんですか?」

さすがは美容師である。accessを知っているうえ、わたしを20代と見破るとは。

* * *

Zepp Tokyoに着く。会場内に流れるSEには、J-WAVEで最近かかってる曲なんかも混じっていた。なるほどHIROはフェラーリでこういう曲を流してるのかと思う。

助手席に乗りたい? まさか。それより屋根にしがみついてスタントごっこをしたい。

ライブがはじまっても、心拍数は80を超えなかった。

わたしはライブでテンションを上げられない。
そういう病というか、性質だ。思えば中学生のとき、セカンドアクセスツアーに行ったときもそうだった。心のバランスが崩れるのをくいとめる力のほうが、はるかに強大らしい。

テンションを上げられないのはしかたないにしても、没頭できないのはつらい。なぜだかわからないけど、急に仕事や過去の失敗を思い出して、そこから逃れられなくなる。

あたりまえだけれど、ライブ中くらいは日常のすべてを忘れて、ステージに集中したい。でも集中できたためしはいちどもない。ライブを楽しめる人が、心からうらやましい。

「こらもう、あんた、一生治らせんで」
耳元で声がする。
だよね。
はっきりわかって、何か開きなおる。2曲目で「レポートを書くためにライブを見よう」と目的を方向転換した。

ステージを見ながら、気づいたことをひたすらメモしていく。
ぜったい何かを持って帰る、ライブに行けなかった人に伝えるという決意が、わたしの五感にプレッシャーを与えつづけていた。

全編を思い出せるライブも、終わったあとに深い充実感を持てたライブもはじめてだった。メモを取る、たったそれだけで。
何か、壁いちまいを突破した気分だった。

* * *

Zepp Tokyoから駅へ向かいながら、ファンの語る声に耳をそばだてる。

「かっこよかった」「○○のときのHIROがさ……」

ライブ直後、わたしたちは魔法にかかっている。その魔法の効力は、すくなくとも東京テレポート駅に着くまでのあいだつづく。その間彼女たちは、Twitterよりも生々しく、言葉にならない言葉でささやきあっている。現実と非現実の境目が、まさしく駅までの道なのだ。

ああ、彼女たちのささやき声を聞かせてあげられたら、どんなにHIROを喜ばせられるだろう。
みんながみんな、SNSでつぶやくわけじゃない。つのる想いを言葉にできない、したくない人もたくさんいる。それでも一緒に行った友達、あるいは帰宅後だれかに語るのだ、崩壊寸前みたいな言葉をかき集めて。

わたしなんかは思うのだけれど、そうした言葉のほうが、こんなブログよりもよっぽど価値がある。ほんとうだ。ただ当人が、その価値に気づいていないだけだ。なんてもったいないんだろう。くやしくて泣けてくる。

ファンはこんなにも満足しているのに、それを知らせてあげられない。ライブ直後の生声をアーティストに届けるしくみが、いつか開発されますようにと願うばかりだ。

* * *

電車を降りると雨が降っていた。

傘を持たないわたしは、そのまま歩きだす。タクシーでさっと帰るより、ライブを反すうしながらぶらぶら歩きかった。

とはいえ、意外と降っていた。雨が容赦なく、おろしたてのワンピースとバッグを濡らす。

しかたなく「愛する彼に突然フラれた女」のテイで歩く。片手で口をふさぎ、不審者にならない程度によろめきながら歩く。空を見上げて、ちょっと泣きマネもしてみる。いいかんじだ、きっとみじめな姿にちがいない、そう思ってエレベータの鏡を見たら、いつもよりずっとかわいく見えた。

鏡の中の女は雨に濡れている。髪が額と頬に張りつき、ワンピースは色が変わっている。なのに、ずいぶん幸せそうな顔でこっちを見ている。失恋どころか、たしかな愛の約束をとりつけたみたいに。

そうだ、Twitterのタイムラインで、HIROのライブへ行くと肌の調子がよくなるって見かけた。でもそんなのわたしには関係ないと思ってた。コンプレックスのかたまりである自分が、鏡を見てかわいいと思うなんて。

玄関のドアを開ける。靴を脱ぎすて、リビングへ走る。ソファに寝転んだ夫が目を上げてわたしを見る。はっと表情を変える。
その一瞬の表情に、わたしはすべてを読みとる。でも相手は何も言わない。そうだ、最初からそういう男だったのだ。
「けっこう濡れちゃったね」
「うん。シャワー浴びて、もう寝ちゃう」
濡れたワンピースを脱ぐと、彼が「えっ」と声をあげた。
「今日、ライブじゃなかったの?」
「ライブだよ。なんで?」
「なに、その下着」
薄手のワンピースが透けてしまうから、生まれてはじめてスリップなるものを買ったのだった。そして、中の下着も全部新品だと突然思い出した。
「ライブとか言って、誰に会いに行ったの」
何言ってんのと笑う。彼も半分笑っている。
「そんな格好、オレの前でもしたことないくせに」
わたしはその場に崩れおちて笑った。もういい。世界中の人間が、わたしをぶさいくと言ってもいいや。彼にさえかわいいと思ってもらえるなら、スリップいちまいでほいほい寄ってきてくれるなら、もうなんだっていい。

「どうだったの、HIROのライブは」
「最高にカッコよかった。結婚したい」
「なんだそりゃ」

* * *

今回のライブで、ひとりのアーティストとしての「貴水博之」に触れられた。
歌とか言葉以上のなにかをわけあえたのはたしかなのに、それを言葉にしようとすると、ひどくいいかげんな、うすっぺらいものになりかわってしまう。

そのうえわたしはHIROのことを、ほとんど知らない。accessのボーカル、から更新されていない。

それについてずっと申し訳なさやうしろめたさを感じていた。ファンの定義とは何か? とか、ねちょねちょ悩んだりもした。

でも今回のライブで、そんな悩みはぜんぶ火星にかっとばすくらいの強い気持ちが体のまんなかに生まれた。それはまだ、あたたかいままでわたしの精神を守っている。

今はそれでいい。大好きだよHIROって、それだけを持っていれば、なんだか大丈夫だと思えるのだ。

 

 

▼レポート(?)

 

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