君は世界に一人だけ

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感じたことと考えたこと

壊れる

洗濯機が壊れた。日曜日の朝に。

洗濯を開始すると、ばたんとブレーカーが落ちる。3回ブレーカーが落ちたところで、あきらめて業者に電話をかけた。

なんで日曜日の朝に、と思う。でも平日の夜だろうがなんだろうが、いきなり洗濯機が壊れたら同じように考えただろうなとも思う。


洗濯機は、ヒーター部分が壊れていた。乾燥はできないけど、洗濯だけなら使えますよ。修理に来てくれた男の人は、洗濯機の上蓋を戻しながらそう説明した。
「10年使ったら、もうだめですよね」
洗濯機は13年も使い続けていた。そんなに長いこと使い続けていたのが恥ずかしくて、そんなふうに言ってみた。
「そうですねえ」男の人は最後のねじをとめ、洗濯機を見やって言った。「10年使ったらまあ、お疲れさま、ですかね」

 

修理の人が帰ったあと、こわごわ洗濯をまわした。ひとまずブレーカーは落ちない。はじめて洗濯機が届いた日のように、洗濯ものが洗われていく様子をじっと見ていた。

13年、休みなしに働いてくれた洗濯機。お疲れさま。そんなふうに思えなかった自分が、ひとでなしみたいに思えた。

これから洗濯機を探さなきゃいけないと思うと気が沈む。壊れなければ何だっていいけど、修理の人によると、最近のドラム式洗濯機は高級品であっても3年程度でいきなり壊れるらしい。

たしかに洗濯機はいきなり壊れた。予兆はなかった。
もしかしたら人も、こんなふうに壊れるのかもしれない。まだ大丈夫。まだいける。ほんとうはもうとっくにしきい値をこえているのに、だましだまし生き暮らし、ある日突然ばたんとブレーカーが落ちる。

前職で、そんなふうに会社を去る人がたくさんいた。総じてまじめで親切で、残業が多く有休をとらない人たち。最初は「あの人が」とびっくりしたけれど、あまりにも続くものだから、だんだんに慣れて、驚きも同情心も薄れていった。

何かサインが出ていたはずなのに、みんな自分のことで精一杯で、もしくは精一杯をよそおって、気づかないふりをした。ただ、他人事のように眺めていただけだった。

洗濯完了の音がぴーと鳴る。部屋干ししたら、翌朝、服がものすごくくさくなっていた。

IKEAシナモンロール。これでもかというくらいシナモンでした