裸を、鏡で見た。
そんなふうに自分の裸をまじまじと見ることは、ふだん、ない。
でも、見た。あれ? と思ったから。
なんか、思ってたんとちがう。肩まわりから、肉がごっそりなくなっているのに気づいて、えっ、と声が出た。
あちこち、骨が浮きでている。あばら骨のあたりなんか、ほとんど洗濯板だ。棒きれみたいな腕を動かすと、薄い皮膚の下で動く骨が、見えた。
ここ数年、体重は徐々に落ちていた。去年など、40キロを割る勢いだった。
体重の低下を「痩せた」とうれしく感じるのは若いうちだけだ。いまは違う。痩せたのではなく、たんに、大事な筋肉が消えちゃったのだ。
筋肉をつけなければ。おちていく筋肉を、食いとめなければ。健全ななにやらは、なんとかのなにやらに宿るというではないか。
「なんとかせねば」と決意して約半年後に、しぶしぶ走りはじめた (ホリエモンの糖尿病本を読んで震え上がったのが原因)。
少し前まで、夜中に走っていた。が、このごろの夜はまさにサウナ風呂で、とても走れたものじゃない (ですよね?)。
着替えてランニングシューズを履き、玄関を開け、「よし。やめよう」とクーラーのきいた涼しい部屋に戻る、というのを数回やったら、走る習慣なんてあっという間に消えてしまった。
トランポリンを飛んだり、K-POPを全力で踊ったり、ヨガ (ほぼストレッチ) やったりと、ちまちま体を動かしてはいる。けど、こんなので筋肉が落ちていくのを、ほんとうに食いとめられるんだろうか?
からだは、もっと動け、走れと言う。わかっております、わたしよりからだのほうがえらいんです。「わたし」なんか、ほとんど意味がない。からだがいちばんえらい。
だからまた走りはじめた。こんどは朝に。
起きて、雑記ノートを書いたら、着替えて外に出る。
6時だというのに、いやになるくらい暑い。でも夜に走るよりはいい。熱気がたまっていないぶん、少しは息がしやすい。
ほかに走るひとはいない。かわりに、犬を散歩させているひととすれ違う。なるほど、犬を飼っていれば、運動不足とは無縁かもしれない。
だけど雨の日はどうするんだろう。犬が濡れないように、レースクイーンの持つようなでっかい傘で散歩するんだろうか。
そんなことを考えながら、近所をぐるっと走って帰る。シャワーを浴びて、鏡をじっと見る。あばら骨洗濯板が、ちょっとマシになったような、変わってないような。
そこで、はたと気づく。いくら走っても、筋肉は上半身につかないのでは。むしろ、太ももやらの、下半身では。
でもまあ、やらないよりはマシ……なの?