君は世界に一人だけ

君は世界に一人だけ

感じたことと考えたこと

装いたいという気分

どちらかというと財布の紐はきついほうで、ちょっといいな、くらいでは買わないタイプだった。

お祭り的なところでお金を使うのはほとんど苦痛の域で、旅行で訪れても「せっかくだから」で散財することもない。

コストパフォーマンスを常に考え、損をすると傷つけられたような気持ちになる。

堅実というより、ケチなんだと思う。

そういったわけで、服に穴が開いても「外に着ていかなきゃばれない」と思いながら着続けた。

穴が開いても、服として機能はする。けどそれは装いから遠く離れた、皮膚を外気にさらさないためのものであって、原始人がイノシシの毛皮を体にまきつけるのとなんら変わらない。

それでも買わなかった。自分自身にお金をかけるのが、いちばん無駄だと思ってたから。

そうこうするうち手持ちのニット4枚のうち3枚に穴が開き、しぶしぶ服を買ったら、考えがちょっと変わった。

なにを着ればいいのかわからない問題 - 君は世界に一人だけ

新しく服を買ったら髪が気になって、パーマをあてた。

パーマをあてたら顔まわりが気になって、ネックレスとピアスを磨き、それらをつけた。すると今度は下半身が気になってヒールの靴を引っぱりだし、履いた。

装いたいという気分が、むくむくとわいてきた。


そんな気分で、クラフトマーケットに出かけた。以前なら素通りしていた、アクセサリーの出店で足を止め、ちょっと見たりした。

しばらく歩き、個性的なピアスを並べたお店で商品を手にとった。若い作家と言葉を交わすうち、相手がわたしの見た目を褒めた。

足を止めたすべての客に言っているかもしれない。それでも、恥ずかしくなるくらい、うれしかった。


服を買ってよかった。高い服じゃないけど、わたしは芸能人でもインフルエンサーでもないから、気にならない。

どんな服をわたしが着ようが、だれにも関係ない。穴が開いていようが、安物だろうが。新しい服を着て喜ぶのは自分だけだ。

逆にいえば、自分が喜ぶためだけに服を着たり髪をあれこれするでいいんだ、と思えた。

あらゆる意味でわたしは終わってると思ってたし、事実そうかもしれない。でも、新しい服を着たりパーマをあてたりして喜ぶ気持ちまで捨てんでいい。ごくたまの褒め言葉を、真に受けて舞い上がったっていい。そんなふうに思った年の瀬でした。

いいおんなという生き物に一度なってみたかったけど来世やね