サングラスをかけた鬼監督ひきいるバレー部に三年間、所属していました。
そういったバレー部あるあるの、暴力が基本、部活にはなぐられに行くようなもので、なぐられない日はあったかな、と思い出そうにもそんな平和な日はなかったようにおもいます。
監督の気の迷いでキャプテンに任命されてからは、なぐられ量倍増、キャプテン候補だったチームメイトからの逆恨みでかげぐちを叩かれ放題。なぐられて嫌われて、よう不登校にならんかったことです。
自信がもてないのも、男性の大声にびくっとなるのも、失敗するのがやたら怖いのも、このバレー部時代に原因があるんではないかと、むしろそうであれと願う次第。
当時、わがバレー部ほど暴力をうけていたチームは、近辺の学校にはありませんでした。
練習試合でよその学校が来ると、相手チームの女の子たちがおそろしげにこちらを見るんですね。するとなぜか、「ふふん」みたいな、不遜な気持ちが生まれる。胸をそらす。
こっちは本気でバレーやってんのよ。あんたたちみたいに、ちゃらちゃらやってんのとは違うんだから。
最強だった先輩の代で、県大会ベスト8どまり。それでも近辺では敵なしでした。
勝つのが、あたりまえ。相手の得点を一桁におさえなければ、なぐられました。
なぐられて、ふふん、となるくらい根性曲がりでないと、やってられないのが実情ではありました。
最後の公式試合にそなえ、県内の強豪と練習試合をしたときのこと。
相手は一年前に全国制覇をはたした、ほんものの強豪です。
体育館に着くなり、二秒で整列、頭を下げ「ありがとうございます! よろしくお願いします!」と叫びあいます(声が小さいとなぐられるため必死)。
顔を上げて相手を見ると、表情がない。
こういうときはたいてい、隠しきれないはにかみがあるものです。敵意よりも、好奇心がおさえられない年ごろですから。
でも彼女たちはまったくの無表情でした。敵意も好奇心もない、無関心な目。
キャプテンは相手チームの監督に単独挨拶しにゆくのが、ならわしです。
行きたくない、と思いました。怖かった。でも行かないという選択肢はありません。
監督は三十代前半の、よく日に焼けた体格のいい男性でした。「はい、よろしく」とちらっと浮かべた笑顔に、凄みというか、迫力があります。
更衣室に走りながら、コートに立つ相手チームのメンバーを見ると、太もものうらが、真っ青なのに気づきました。そのときは単純に、色つきの湿布薬でも塗っているのかなと、さほど気にとめませんでした。
着替えをすませて二度目に見たとき、色つきの湿布薬ではないとわかりました。
竹刀による殴打で、肌のいろがすっかり変色しきっていたのです。
試合中、竹刀でなぐりつけられる音が、体育館にひびきわたります。
鼻血が出るまでなぐられて、胸もとに大きな赤い染みができていました。
なぐられた子が、ありがとうございます! と頭を下げてコートに戻る。コートにいる全員の胸もとが、赤く染まっている。新しい血が、コートにしたたりおちる。
彼女たちも、痛みを感じなくなっていたのかもしれません。
なんのためにバレーをしているのか、なんのためになぐられているのか、考えることもできなくなるくらい。
なんだったんだろう、あれは。なんだったんだろう、ほんと、なんだったんだろう。
今週のお題「わたし○○部でした」
かっこつけるわけじゃないけど、いまの子どもたちが、そんな目にあわずにすんでよかったと心の底からおもうし、そうおもえるだけで、なぐられた甲斐もあるというか、救われる気がします。