自分らしさ。私は長年、この日本語に悩まされてきた。呪いといってさしつかえない。
だいたい、ふわっとしすぎである。なんだ、らしさって。
雑誌なんかで見かけるキャッチコピー「自分らしく生きよう」。
「都会的アーバンリゾート」くらい意味不明である。
そんな、私を悩ませていたこの呪いが、ある日突然とけた。
今回はその話をしたい。
「自分らしさ」って、なんだろう
自分らしさ。個性。
生きていくにあたり、「そんなもん、いーらない」ってクールなひとはいない (たぶん)。
自分らしさって、なんだろう。
自分の特性みたいなものなら、おぼろげにわかる。
だけどメディアで紹介されるような「めちゃんこ個性的なひと」とくらべると、あまりにもふつうだ。
個性的でないばかりか、何か自分が「優秀なひと」の下位互換のようにさえ思える。
自分らしさを知りたい。
ものすごくしょうもないかもしれない。でも他のひとにないものがもし自分にあるなら、その手がかりだけでも知りたい。
自分らしさって、なんだろう?
「自分らしさ」はミックスジュース
私はいま、キャッチーな「自分らしさ」はいらないと考えている。
なぜなら、ほんとうの自分らしさや個性は、言語化できないから。
自分らしさとは、そのひとの中にある全部をミキサーにかけた、ミックスジュースだ。
お店によってミックスジュースの味が違うように、ひとによって味も色もがらっと変わる。
ミックスジュースを一言で言い表すのはむずかしい。
だから、キャッチーな言葉なんていらないんである。
自分の中から出てくるものすべて
なんでそう思ったかを話したい。
先日、Web系オンラインワークショップを受講した。
脳みそをきりきり絞りあげるようなワークを半日間みっちりやった。
たとえば「テーマをぱっと見て、5分でアウトプットを制作せよ」。
こんなワークを何本かやった。
(難しく聞こえるかもしれないけど誰でもできる。板チョコ10枚賭けてもいい)
純粋にワクワクして、夢中で取り組んだ。
出題されるテーマごとに、自分の中から想像もつかなかったものがパッと出てくるのにおどろいた。
でも他の受講者から出てきたものに、もっとおどろいた。
みんな、ぜんっぜんちがう。
同じテーマを見て、瞬時に生み出したもの。
それが、コンセプトも方向性も切り口も、全員まったくちがうんである。
どのアウトプットも個性的で、そのひとらしさ全開だった。
私たちはお互いの違いにおどろき、それぞれの個性に称賛を送り合った。
* * *
誰もが異なる個性を持っていて、そこに優劣などない。
これだけを聞いて「そうか、やったね!」なんて思うひとはいない。
道徳の時間で聞くようなフレーズ。
啓蒙的な本のどっかに書いてあるコピー。
まるで意味がない。
だけどこれを実際に体験すると、納得感がまるで違った。
私は心の底から納得した。自分らしさとは、そのひとの中にある全部だ。
「自分らしさ」は言語化できない
私は日頃から「自分らしさのようなものがあるなら、それを知りたい」と、わりと切実に願っていた。
自分や、自分が書いたものを肯定感に捉えられずにいたからだと思う。
「自分らしさ」がわかりやすく言語化できれば、少しは肯定的に感じられるかもしれない。そう思っていた。
でも「私らしさとは○○である」なんて言語化できないし、すべきではないと気づいた。
自分らしさは「点」じゃない。
点と点とをつなぐ線、面、グラデーション。そのすべてだ。簡単に言語化したら、むしろ自由が奪われる。個性を侮ってはいけないし、決めつけてもいけない。
無理に差別化をはかろうと個性的であろうとするほど、むしろその人らしさが失われるのではないかと思う。
私はメガホンを持ち、深く息を吸い込み、ステージの上から叫びたい。
あなたの中から出てくるものは、一滴のこらず「あなたらしさ」だ。
あなたは十分個性的で、誰にもないものをすでに持ってる。
誰かと比べたり、まして、冗談でも自分を卑下しちゃいけない。
自分から出てくるものを、まっ先に自分で断罪していたら、デリケートでかよわいクリエイティブ心が縮こまってしまう。
表現するのに資格なんていらない。レベルに達してないなんてぜんぜん関係ない。
私たちは安心して自分と深く向き合っていいし、自分の中にあるものだけで自由に表現していいんである。
呪いからの解放
同じテーマなのに、アウトプットがまったくちがう。
考えてみれば超ウルトラ当たり前だ。
こんな超ウルトラ当たり前な体験を通してようやく、私は「自分らしさ」という呪いから解放された気がする。
何だったんだこの数十年。
私はもう「自分らしさ」を知りたいとは思わない。
それよりも、自家製ミックスジュースのおいしさにとことんこだわりたい。
喜んで飲んでくれるひとのために、新鮮なリンゴやバナナ、ドラゴンフルーツをたっぷり用意したい。
そして私は、あなたのミックスジュースもすっごく飲んでみたいのである。