出不精とはいえ、2ヶ月にいちどくらいは「どこかへ行きたい」と思う。
行きたい、というより、出かけておかないと自分がだめになってしまいそうで、こわい。リモートワークになってからはとくに。
かといって、良さげなスポットを調べるのもめんどうだから、このごろは「あ」と思ったら、美術展へ出かけるようにしている。
そのようなわけで、「ワニがまわる タムラサトル」展へ行った。
てのひらサイズの小ワニから、12メートルの巨大ワニまで、ありとあらゆるワニが、まわっていた。
わけがわからない。なんで、ワニ。なんで、まわすの。
なんで。なんで。
あらゆるワニのなかで、もっとも心惹かれたのは「丸焼き風・串刺しワニ」。
いろんな角度から、この丸焼きワニをじっと見ていた。ばかばかしいものを見ると元気が出るって、知らなかった。
美術学生の作品をあつめたコーナーも圧巻だった。
よく見ると、ほとんど、ワニのテイをなしていない。つっこまずにはいられないワニ (のようなもの) が、電気仕掛けでまわっている。
なにをもってワニとするのか。これまで認識していたワニとはなんだったのか。
ハチャメチャで、笑った。
1000匹以上ものワニをまわした美術家のタムラサトル氏いわく。
「なぜ、ワニがまわるのか」という問いに、答えはありません。この大きな疑問を、そのまま疑問として持ち帰ってほしいと思っています。
なぜ、ワニがまわるのか。なぜ、わたしたちはまわらないのか。なぜ、いつも性急に答えをほしがるのか。
けなげにまわるワニたちを見ていると、ワニと自分との境目がちょっとずつあやふやになって、堂々めぐりをしてばかりの自分と重なる。
ワニがまわる。わたしの悩みもまわる。ふたつはつながってまじりあう。ワニワニユニバース。
* * *
まわるワニを見たら、なぜかお腹がへった。
美術館併設のカフェでコーヒーを飲み、サンドイッチを食べる。
強気な値段のわりに、渋谷あたりで店を出したら3日でつぶれそうな味だった。
それでもテラスの気持ちよさは格別で、すわっているだけで「いい休日を過ごしてる感」が満たされる。ひな型みたいな休日、自分と世界を、ちょっと好きになれそうな気持ち。
飽きるまでぼんやりして、ワニがまわるなぞと一緒に、電車に乗って帰った。