帰省中のこと。酔っぱらって、テレビをみるのにも飽きて、スーパーマーケットへ歩いていった。
やたらでかいスーパーマーケットに着くと、まっすぐお菓子のコーナーにむかった。
酔っぱらって、気がおおきくなっている。ふだんはぜったいに買わないふくろのお菓子を、買いものかごにどんどん入れていく。ポテトチップス。ピザポテト。なつかしのカール。それから目についた「たけのこの里」と「きのこの山」を手にとった。
ライバル関係にあるチョコ菓子を、じっと見くらべる。
わたしはきのこ派だった。チョコとビスケットをべつべつに食べられるのが、よかった。
小六の遠足以来、何十年も食べていない。チョコを食べたらふとるしにきびができる。
つまらない人みたい、あたし。思って、二つともかごに入れた。
数日前、親戚の子どもが危篤と聞かされた。
骨髄移植を受けたが状態が悪化した、この二、三日が山らしい、と。
突然の知らせだった。
最後に会ったのは、あの子が小六のときだった。夏に帰省したら、実家に遊びにきた。
仲がいいわけじゃない。ぜんぜんない。べつに会ってあげてもいいけど、会わずにすむなら会いたくない、そんな仲。
久しぶりに会ってみると、ずいぶんはにかみやになっていた。ふだん何を食べているのか、歯はむし歯だらけで、小さなお相撲さんみたいな、ふくふくした体つきをしていた。
全方位から甘やかされて育ったのが、傍目にもわかる。ひとことでいうと、ぼんぼんの中のぼんぼんだった。
おせんべいを出すと、えーおれチョコのお菓子がいいー、と文句をつけた。
麦茶を出すと、えージュースないのー、と口をとがらせた。
ないよ、そんなもん。つめたく返した。
ええー、なおちゃんきらーい。
悪態をつきながらも、あたしのことを名前で呼ぶのが、ちょっと恥ずかしそうだった。
なにも知らなかった。
病気になったことも、長く入院していたことも、骨髄移植を受けたことも、いま何歳なのかも。
買いものをすませて、もとの道を歩いて帰る。
だれも歩いていない。片側二車線のバイパスを、たくさんの車がびゅんびゅん走り去っていく。日の光が、来たときよりも弱くなっている。
きのことたけのこ。つまらないわたし。つまらない人生。つまらないなんて、どうしてあんなに簡単に言ってたんだろう。
あの子は、どっち派かな。
つぎ会ったとき、聞こう。それで、スーパーマーケットの棚にあるやつ全部、なんなら両方、買ってやろう。気前よくジュースも出してやろう。
かかえきれないほど買ったお菓子は結局、ひとつも食べなかった。