君は世界に一人だけ

君は世界に一人だけ

感じたことと考えたこと

BTSの夢を見る

今朝、変てこな夢を見た。

他人の夢なんぞおもしろくもなんともないのが相場で、実際おもしろくないんだけど、ぜひとも書き残しておきたく。

たまにありますよね、そういう夢。

   *  *  *

実家の居間に、BTSの人がすわっている。名前は知らない。

ゆるくウェーブのかかった黒髪はまっすぐにセンター分けされており、その下にある色白の顔は、はっとするほど美形であった。

どうやら彼は父方の親戚筋で、とくべつな用事をすませてうちに寄ったらしい。親戚筋にBTSがいるとは知らなかった。生きていると、ときに予想もつないことが起こる。

彼は細身の黒いジャケットと、まっ白なシャツを着ていた。トップアイドルたるもの、炎天下だろうがなんだろうが常にグラビアの衣装みたいな服を着るのである。

Twitterやってなくてよかった、とわたしは思った。写真を撮ってアップなんかしたら、きっとえらいことになる。というか、自分がそんな精神を持ちあわせてなくてよかった。

安心してよ、あんたが親戚なんて誰にも言わないから、と恩着せがましく言う。
でも相手はそんなのどっちだってよさそうだった。

居間には彼とわたししかいない。麦茶は一口も飲まれずに、グラスは汗をかいている。

不思議なことに、この世のものとは思えないほど美しい男を前にして、わたしは胸の高鳴りを覚えなかった。親戚筋の男にときめくほど飢えてはいないとわかり、少しほっとした。

「ひとつ聞いてもいい?」とわたしは言った。

相手がこちらを見る。黒に見えた瞳は、濃い茶色だった。
彼は何もいわず、とはいえ拒否しているふうでもなく、ただめんどくさそうに次の言葉を待った。
何かくじけそうになる。そんなにイヤなんだったら、早く帰ればいいのに。

YouTubeにファンが上げてる動画とかって、観たりすんの?」

彼は少し考えて「いいや」と答えた。それから2秒ほど置いて、つけ加えた (えらく流暢な日本語だった)。「観ないこともない。誰が作ったかなんて、いちいち気にしないから」

そういうもんかと思った。答えを聞いたあとで、なんでそんなしょうもないことを聞いたのか、自分でもよくわからなくなった。

「第一、観るヒマがない。ずっと忙しいし」

彼はどこか、ひとりごとみたいにしゃべる。これって会話なのかな、とわたしは思った。続けて聞いてみる。

面白い動画があったら、他のひとと共有するの。/べつにしない。

答える前に間を置くのは、彼のクセなんだろうか。それとも、リアルタイム配信のインタビューなんかで口をすべらせないように、日ごろから訓練を積んでいるんだろうか。わたしなんか口先でぱっと話しちゃうから、考え込んでしまう。

明日アメリカでしょ。飛行機、何時?/1時。

わたしと同じ便だった。なぜか明日、わたしもアメリカに行くことになっていた。

同じ便だとは言わなかった。余計な情報を吹き込んだところで愉快な会話には発展しなそうだったし、この先どこかで顔を合わせることがあっても、彼がわたしの顔を覚えているとは思えなかった。

この場にたしかに存在しているのに、彼はどこにもいないみたいだった。彼は何にも注意を払わない。グラスの水滴が無垢材のテーブルに輪染みをつくっているのさえ。

「じゃ、あたし行くわ」

立ち上がったわたしを、彼がじっと見た。
もっと話していたかった、聞きたいこともあった、時間さえあればもう少しまともに振舞えたのにと、彼の顔を見て思った。でもそんなの相手には何の関係もない。

住む世界の違う人間が一緒にいても、お互い幸せにはなれない。そうクールに思い込もうとしたけど、ほんとうは相手に「めんどくさい」と思われるのがなにより辛かった。

最後にひとつだけ聞きたいことがあったんだけど、なんだっけ? 彼の顔を見ながら思い出そうとするうち、目が覚めた。



余談:

昨日 (8/30) J-waveで「BTSの入隊期限迫る」というニュースを聞いたのが、夢を見たきっかけになったようです。

ご存知のとおり、入隊したK-POPアーティストは例外なくスターダムから引きずり降ろされます。

芸術に対する国の暴力を止めるべく、世界中のファンは日夜心を痛め、さまざまな活動を積極的におこなっているだろうと思います。

彼女たちの努力が、どうか実を結びますように。