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命に代えてもお前に勝ちたかった|映画『ラッシュ/プライドと友情』感想

ラッシュ/プライドと友情』(2014年公開) は、1976年のF1に実在した天才レーサーふたりの伝記的映画です。

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価値観も性格もまるで正反対のニキ・ラウダ (ダニエル・ブリュール) とジェームズ・ハント (クリス・ヘムズワース)。天才レーサーふたりのライバル関係をめぐる、壮絶な実話です。

公開当時 (2014年)、3回映画館へ足を運びました。3回行って、3回とも感涙。それはわたしがモータースポーツファンだからというより、ラウダとハントの生き様に引きこまれたからです。

レースシーンもあるけど、どちらかといえばスパイス的な扱いで、主軸はあくまでふたりの関係性。F1をぜんぜん知らなくても、感動的な人間ドラマとして楽しめます。

実話、実写

『ラッシュ』は現役レーサー、レース関係者の支持も高い作品です。それはこの映画が丁寧に、真摯につくられているから。ラウダ本人も、実話に近いと認めています。

初めて観た時は言葉も出なかった。ハリウッド映画にありがちな派手な脚色もなく、事実にとても近かったのでうれしい驚きがあったんだ
(F1速報PLUS Vol.35)

制作陣や主演を努めたダニエルはラウダに何度も会いに行き、細かな点まで確認し合ったそう。ラウダは「映画のはしばしに映るちっぽけなものまで」感慨深いと語っています。

おどろくべきことに、レースシーンのほとんどは「実写」。クラッシュシーンはすべてリアル撮影。なんと主演ふたりも実際に乗っています (もちろんレーススピードじゃないけど)。

対照的なふたりのライバル関係

ジェームズ・ハント。腹が立つくらい魅力的です。

野性的でプレイボーイ。彼を一目見た女性はみなふらふらと吸いよせられて、飛行機のトイレやら病室やらで行為におよびまくります。
壮絶に男前でセクシー、そんなのがレーサーときたらもう、そりゃあそうなりますわね。

そのくせレース前にはかならず嘔吐。ハントも完璧なスーパーマンではなく、欠点や弱さを持った人間なのです。

いっぽうのラウダは、ハントとは正反対の完璧主義者。

地味、真面目、堅実、人嫌い、パーティー嫌い……一言でいうと、つまらない。
実力ナンバーワン、F1の前年チャンピオンなのに女性を口説けないし、プロポーズもどこかおぼつかない。とても魅力的とはいえない男です。

で、この人たち、出会った瞬間から口論してます。

顔をあわせば即口論。ライバル心も丸出し。相手への敵対心に目がくらんで、二人そろってタイヤ選択を間違える。
他にもライバルはいるのに、お互い相手しか見えていないのです。

お互いに少し嫉妬していて、だからこそ相手の価値観を攻撃する。「俺のほうが正しい」といわんばかりに価値観を押しつけあうところなんか、子どもみたい。

L:君はただのパーティー男、人気者だ
H:妬いてるのか?
L:なぜ僕が嫉妬する?

ライバルなんだか、友情なんだか

運命のドイツGP。ラウダのマシンがキャッチフェンスに激突、後続車と正面衝突し、マシンは激しく炎上。400度もの炎に包まれたラウダは大やけどを負い、病院へ緊急搬送されます。

拷問のような治療を経て、わずか42日でF1に復帰を果たしたラウダ。変わり果てた彼の顔を見たハントは凍りつきます。

H:レースを決行すべきじゃなかった
L:そうだな
H:こうなったのは俺のせいだ
L:そうだな

事故の元凶となったハント。自責の念が彼を追いつめます。
ラウダはハントの後悔を受け入れ、静かに言います。

でも君の勝利を見て、生きる闘志がわいた。僕をここに戻したのも君だ

ラウダの記者会見を見守る繊細な表情から一転、ラウダを侮辱した記者をボコボコにする激情を見せるハント。やるせない思いを抱えて、自分をコントロールできないハントにどぎまぎします。

俺は、命に代えてもお前に勝ちたかった

ハントの人生観が、この一言に凝縮されています。カッコいい。

こんな台詞をさらりと言えちゃうハントも、ライバルの"告白"を無感動に受けとるラウダも、ズルいくらい、男前。

ライバルなんだか、友情なんだか……きっと本人たちにもわかってないんだろうな。

いちばん印象的なシーン

終戦の日本GP、スタート直前のシーンです。

スタート直前。3メートル先が見えないほどの土砂降り。ラウダは前方のハントに視線を送る。ハントはシートの中からラウダを振り返る。じっとお互いを見つめ、無言のシグナルを送りあう。まるで戦地へ赴く戦闘機乗りのように。

ラウダがハントを許し、ハントがラウダに許されることで、二人の関係は宿命のライバル以上のレベルへと押し上がる。それを象徴する、胸を打つ美しいシーンです。
(予告にも収められているのでぜひ!)

 

この映画を観るまで、当時のF1がどれほど危険で過酷だったかを知りませんでした。

毎年ふたりが死ぬ。それでもレーサーは時速270kmの爆弾にしがみつく。死神と一緒にシートに身を沈め、アクセルを踏みこまなければ生を謳歌できない生き物だから。
クレイジーって、レーサーのためにある言葉だ。

死ぬ確率、20パーセント。
そんな世界に生きる男ふたりの、壮大でドラマティックな実話です。

 

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