君は世界に一人だけ

君は世界に一人だけ

感じたことと考えたこと

オレ、大ちゃんだったみたい

夫はaccessのデビューシングル以降、すべてのCDを発売初日に買っていた。

しかし彼はaccessファンでも、大ちゃんファンでもない。

「大ちゃんの音を研究していた」過去をもつために、技術的な部分に関してのみ多少詳しいだけの男である。

ところが、25年ぶりに出戻ったaccessファンの私に影響を受けたのか、日常生活にaccessを持ち込むようになった。べつに頼んでもないのに。

何の脈絡もなくいきなり「ヴァージンエモーションッ!」って歌いだしたり、

早朝とつぜん「LOOK-A-HEAD」を大音量でぶちかまして私を飛び上がらせたり、

私のワークアウト中、いきなり部屋に飛び込んできてエアKXを弾きだしたり

キャベツの千切り中、背中合わせになってきたり (これはやられるとマジでうっとうしい)。

細かいのを上げてたらキリがないくらい、日常生活にaccessをぶちこんでくるのである。

accessファンの夫」としては大合格だろう。うっとうしいときもあるが、基本的には楽しい。

そしてこんな日常を送っていたら、「夫のaccessファン化も夢ではない」「一緒に橋を渡れるかも(注:access復活後のアルバムタイトルをもじって勝手にそう言っている)」と夢見るようにもなる。

なのに、これがぜんぜん違った。
ファン化どころか、access圏外の男だった。

オレにとって大ちゃんの最高峰はaccessではない」という、およそききずてならない発言があったのだ。

以下は「access至上主義的ファンの嫁」と「大ちゃんの音だけに興味のある夫」の攻防の記録である。

なお、なるべくリアリティを出すために、私の口調がふだん通りのため「クチ悪ぃな」と感じられると思うが、私は夫に対してのみ口がわるいだけで、友だちに対しては決してこんな態度ではないことを言い添えておく。

* * *

なんかおかしいなとは思っていた。

彼はaccessのイントロを正確に口ずさむ。
私の口ずさみに対し「キーがぜんぜん違う」と鼻で笑うくらいには、わりに正確に把握している。

しかし、いつもイントロでおわる。そのまま歌に突入しないのである。

私「ねえ、前から思ってたけど、なんでそこから歌わないわけ」
夫「え? だって歌知らないもん」

意味がわからない。

私「どういうこと?」
夫「オレ、イントロとサビのオケしかきいてないから。歌詞きいてないんだよね、あなたと違って」

頭の中が?でいっぱいになる。

私「はあ? なにそれ、歌詞きいてないって。なんなの、バカなの?
夫「あとAメロのオケも一応きく」

私「Bメロは」
夫「きかないね」

私「えっバカなの? 大ちゃんていったらBメロでしょうがよ」
夫「しらんよ。オレずっとそうやってきいてたよ。言わなかった?」

しらんがな。

私「じゃあアクセスで一番の曲ってなに?」
夫「え? アクセスで? ないよ、そんなの」

私「ないってなに。ないわけないでしょうが。ちゃんと考えなさいよ」
夫「えぇ……?」(と言いながらどっか行く)

〜〜 1時間後 〜〜

「やっぱ……ないわ」

どこか茫然自失みたいな顔で夫は言った。
はじめ彼が何のことを言ってるのかわからなかった。どっか行ったと思ったら、どうやらaccessの曲をきいていたらしい。

私「アクセスで一番の曲が、なんでないのよ。全部一位ってこと?」
夫「いや、ていうかね、オレアクセスじゃなくて大ちゃんだったみたい

衝撃の発言である。いや衝撃でもないか。そんな予感は多分にあった。
しかしaccessと大ちゃんの、何がちがうのかわからない。
私の中では「大ちゃん=access」である。もうこの時点で、彼の認識とは決定的にズレていた。

「あ、そう……じゃあアクセス以外でもいいよ。大ちゃんの一番は?」

彼は少し考えてこう答えた。

ホットリミット

これはさすがに衝撃だった。まさかのTMレボリューション。

「えええ!? それが一番なの? なんで? 他には?」
ナンダカンダ

そしてまさかの藤井隆

「うそでしょ。アクセスより藤井隆……なんで? まったくわからない」
「あなたさ、当時の大ちゃんのすごさを知らないでしょ」

ここで突然当時の大ちゃんを語りだす夫。

「あの当時の大ちゃんのポップさとキャッチーさはずば抜けてた。大ちゃんの本当の才能が開花したのは、むしろプロデュース以降だよ。TMレボリューションのオケ、ちゃんときいてみなよ。小室さんでも作れないよあんなの。アクセスもいいんだけどうんたらかんたら」

ここまで大ちゃんを大肯定する夫を、私ははじめて目の当たりにした。accessに対して、彼からこのような言葉をついぞきいたことがない。

彼は大ちゃんのプロデュース時代を最高峰ととらえていたのである。

私はショックだった。
価値観が違いすぎて話にならない。
一緒に橋を渡れねーどころの騒ぎじゃない。
バンドだったらこの瞬間に解散してるレベルだ。

夫は一切の感情抜きで大ちゃんの音をききつづけていた。私のききかたとはぜんぜんちがう。
それに彼と違って、私は大ちゃんのプロデュース時代をよく知らない。だから世間的な評価や、純粋な技術面でいえば、あるいはそうなのかもしれない。

ふたりでSpotifyからホットリミットとナンダカンダをきく。
彼の主張もわかる。のりにのってる「勢い」が音にあらわれている。

「完璧に近い」と夫が言う。
マジかよ。こんな言葉、絶対accessで言わねえじゃねーか。
この男はクソのつく毒舌野郎だ。こいつの破格の賞賛をきいてオレは思った。

オーケー、オレの負けだ。きっとあんたの言うとおりなんだろう。
だけどこれはオレの求めてるものじゃない。

私と彼とのあいだには、マリアナ海溝ほどの断絶があった。
この埋めがたい価値観の違いは、もうどうしようもない。
一緒に橋を渡る夢を見たけど、それももう終わりである。

短い夢であった。






〜〜 数日後 〜〜


あ・い・か・わ・ら〜ずきょうだあってぇ
こぉしーてそばでー
う・た・あ・って・るってー


洗濯ものをたたみながら、あまりにもふつうに「Friend Mining」を歌っている夫がいた。


橋をあきらめるのは、まだ早いかもしれない。



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