2020年10月に開幕したaccessのツアー「access 2020 LIMITED CONCERT SYNC-STR」が11月3日 (火・祝)、中野サンプラザで開催された。
コロナの影響により「観客数は会場の半分以下/マスク着用の義務/歓声等の禁止」という国のガイドラインにもとづく開催となった。
そんな状況下で開催された本ライブのレポートをお届けする。
* * *
幻想的。ライブ会場に足を踏み入れると、そんな言葉が頭に浮かんだ。
色彩を変えながらゆっくりとまわるミラーボール。幻想的な光と空間を、重厚でスリリングなサウンド・エフェクトが包む。
「待ちに待ったライブがはじまる」という期待が静かに、否応なしに高まる。やはり浅倉大介というクリエイターは策士だ。
開演を知らせるブザーが鳴り、サウンド・エフェクトのボリュームが上がる。
オーディエンスの期待がさざ波のように広がる。
場内が暗転し、スモークの広がったステージにふたりが登場すると、声にならない声とペンライトの光が場内を包んだ。
オープニングは「Hung Me For The Distance」。派手さというより、ふたりの意志を明確に示す音の構築だ。歌詞をひとつずつ並べて差し出すように歌うヒロ。力強いキーボードプレイでオーディエンスを非日常へ連れていく大ちゃん。
夢より早く 闇よりも深く
溢れる想いを 君に乗せて伝えたい
ひとつひとつの歌詞、その意味をオーディエンスの心の奥へ届けるように、ヒロは遠くへ手をのばす。オーディエンスは彼の歌と意志とを受けとり、同じように手をのばす。
アーティストとオーディエンスの「会いたかった」という想いを確認し合うようなオープニングだった。
オープニングの熱がのったまま、グルーヴ感溢れる「Grateful Circle」が続く。MCを挟んで「DRASTIC MERMAID」「SCANDALOUS BLUE」を続けて披露。
ヒロがいったんステージをはけ、「SCANDALOUS BLUE」は大ちゃんのピアノソロバージョンへ転換。ここからグランドピアノの迫力ある音が奏でられていく。
再びヒロがステージに登場する。薄暗いステージの上でふたりが目をあわせ、小さくうなずく。呼吸を合わせて静かにカウントをとり、大ちゃんがピアノを弾く。「TEAR'S LIBERATION」だ。
ピアノを弾きながら、大ちゃんは何度もヒロに目を向ける。ヒロの背中を見ながら、指揮者と呼吸を合わせるかのようにピアノを弾く。
そして、触れたら切れそうな彼の真剣な表情が、1コーラスのサビ前で一気にゆるんだ。
顔を上へ向けて唇を左右に引き、恍惚の表情をうかべる。サビの中盤にさしかかると表情がよりほどけて、嬉しくてしかたがない、という満面の笑顔にかわる。その笑顔で彼は客席を見渡す。
僕らだけが見つめた 永遠を越えてゆく
大ちゃんも、そしてヒロも心から幸せそうに「TEAR'S LIBERATION」を演奏し、歌っていた。その幸せがオーディエンスへ伝わり、また幸せが彼らに返っていく。
声が出せなくても、いや、出せないからこそ届く想いがある。そんな奇跡のような一幕だった。
次いで美しいバラード「STAY MY LOVE」で会場をしっとりと包むと、本日2度目のMCと、ヒロのタンバリンが見つからないというハプニングを挟み、「Friend Mining」と懐かしい「CAN-DEE GRAFFITI」の軽快なミックスバージョンが披露された。
ここでまた小さなトラブルが発生する。大ちゃんのギターの音が鳴らないというハプニングだ。
ヒロはこのハプニングを逆手にとって「音が出ない〜」と自身のエレアコを弾きながら即興で歌いはじめた。この器の大きさたるや。しばらくしてギターの音が鳴ると、ニコッと笑って「音が出た〜」と歌って締めた。
ヒロの器の大きさ、対応力、明るさに誰もが救われたことだろう。結果的に、ファンとしてはむしろうれしいハプニングとなった。
トラブルを乗り越え、「Especially Kiss」がツインギターで演奏され、続く「SWEET SILENCE」のドライブ感溢れるアレンジに再びボルテージが高まっていく。
あらゆるタイプとアレンジで多彩な表情を見せてくれるaccessだが、前半ラストを飾る「S-MILE GENERATION」はあえてオリジナルに近い音源での演奏だった。当時のファンなら胸熱の展開だろう。
手を胸に 押しあてて 弾ける音に気づいて
KXを持ったまま胸に手を押しあて、客席をじっと見渡す大ちゃん。この歌がちゃんと届いているかをたしかめるように、ひとりひとりの顔を見つめ、幸せそうな表情をうかべている姿が印象的だった。
* * *
15分の休憩を挟み、後半の公演の幕があがった。
ステージ奥の天井から、雨を模したクリスタルガラスのレースカーテンが降りてくる。
スモークの立ちこめるステージにふたりが再び登場する。
ストリングスとともに、大ちゃんがグランドピアノを静かに奏ではじめる。
本ツアーのスペシャルのひとつ、「PALE BLUE RAIN」である。
「オリジナルではなく、原曲に近い状態」との説明があったように、曲の持つ美しさを最大限引き出すきわめてシンプルなアレンジだ。
ヒロは目を閉じ、曲の世界に没入する。大ちゃんも深く集中し、ガラスのピアノを弾くかのように繊細な音を奏でる。
ふたりの想いが、1コーラスサビの<Rain>でまずは結実する。これ以上できないくらい深い想いが込められた<Rain>。どこまでも優しく、繊細でありながら、聞く者の胸を打つ深い音。彼らの内部で起こった静かな感動の爆発が、オーディエンスへと広がっていく。
ブリッジ後、大サビに突入する直前、大ちゃんが左足を踏み鳴らす。その鬼気迫る音にオーディエンスははっとする。
ヒロの切実な歌声と、大ちゃんの想いが溢れるピアノ、ふたりの音を静謐に包むストリングス。会場の感動が頂点に達していく。
ふたりの魂そのもののような演奏に、オーディエンスは深い感動に打たれていた。
<鍵盤から指を離したくなくなる>瞬間があると大ちゃんは語ったが、その場にいた多くのファンも「ずっとこの余韻にひたっていたい」と感じただろう。
大サビ後、大ちゃんはピアノを弾きながら客席を見渡していた。やわらかな、優しい微笑みをうかべて。彼の輪郭はスポットライトの光できらきらと輝いていた。それは息をのむほど神々しく、美しい光景だった。
MCを挟み、「Bright Sight」「sync parade」を披露。再びボルテージを高めていく。
次ぐ「EDGE」はある意味でボーカリストへの挑戦状とも受け取れる、攻撃的なアレンジだ。受けて立つヒロは涼しい顔でこれを乗りこなす。半端なボーカルではこの容赦ないアレンジに負けてしまうだろう。ヒロのボーカル力、表現力は見事の一言である。
こんなアレンジをぶつけられる点において、accessは互いを信頼し、刺激し合い、高め合う関係性であることを証明している。
「EDGE」のテンションのまま「Let me go」に突入。サビでのキャッチーな振りつけで会場は一体となる。ロックアレンジの「Winter Ring Affair」からライブは「SILVER HEART」で佳境にさしかかる。
「SILVER HEART」でふたりはロボット化したような振りつけを披露。彼らのロボ化は見事なもので、動きを止めた瞬間など、まばたきひとつしない徹底ぶりだ。サビでは息の合ったアシンメトリーな振りつけにオーディエンスの目は釘付けになった。
大サビ後はエッジの効いたギターサウンドをかきならすエレキバイオリン (Vn.雨宮麻未子氏) と大ちゃんの掛け合い合戦に移行した。
どちらも一歩も引かない、お互いのプライドを賭けるかのような一戦。弓を武器のように振り回す雨宮氏の姿は妖艶で、力強く美しい。大ちゃんは赤いギターを掻き鳴らして対抗する。終盤は一瞬頭がどうかしたみたいな表情をうかべ、ギターを叩きつけてぶっ壊してしまいそうな狂気を垣間見せた。
続く「Heart Mining」では、今の未曾有の事態を予感していたかのような歌詞にあらためておどろかされる。
歪むこの地球で明日に向かってく 眠れずに不安な夜
そう、まさに今、私たちはこのような夜を日々越えている。
残された僕らが 残さねばならない
それでも残していかなくてはならない。この胸の中にある想いを、生きた証を。
立ち止まらず、思考停止に陥らず、常に自分と対峙し、何かを残すためにこれからを生きていく。
才能をもった一握りの<残せる者>が残すのではない。
私たちひとりひとりが<残さねばならない者>でなのである。
本ライブで大ちゃんが唯一コーラスをのせた意味を、このように捉えるのは深読みしすぎろうか。
本編のラストはおなじみの「MOONSHINE DANCE」が飾る。
これまで接触を避けつづけたふたりが、はじめて背中合わせになる。この背中合わせのために、大ちゃんは数曲前からマスクを装着し準備していた。
背中合わせになったまま、ヒロは客席に顔を向けて歌う。一方の大ちゃんは反対側に顔を向けたままのパフォーマンス。ソーシャルディスタンスが叫ばれる中での、できうるかぎりの接触なのだろう。なんとかファンを楽しませたい、そんな心意気の伝わるパフォーマンスだった。
* * *
アンコールで再びステージに登場すると、大ちゃんは思わずといった調子で「まるで未来に向かっていく群衆の足音のよう」とオーディエンスの手拍手をたたえた。
アンコールは「20th Sincerely」、クリスマスを先取りする「Fairy Snow」、ラストに「DECADE&XXX」が披露された。
アンコールの合間に挟まれたMCでは、翌日53歳の誕生日を迎える大ちゃんのためにサプライズが用意されていた。
ストリングスが「ハッピーバースデー」の曲を演奏し、ヒロが低めのキーで歌うというものだ。
大きなケーキに立てられたロウソクを吹き消し、大喜びする大ちゃん。グランドピアノを前にしたときの巨匠みたいな表情と、この無邪気さのギャップもまた彼の魅力だろう。
MCでは相変わらずといったようすの仲の良さを披露。
「めんどくさいこと言ってると思ってるんでしょ」と大ちゃんが拗ねたふりを見せると、
「思ってないよ! これくらいしか」とヒロがふざけてみせる。
何十年経っても仲の良いふたりに、ファンの心は温められる。こんな、なんでもないやりとりがずっと続きますようにと願わずにはいられない。
アンコールが終わり、別れを告げる「LOOK-A-HEAD」がBGMに流れる。
別れの寂しさを感じないのは「やっぱりaccessファンは最高」という、ヒロの口をついて出たような言葉を聞いたせいかもしれない。
accessファンは最高だ。「accessの方が最高だ」とファンは言うだろう。
そう、彼らはお互いがお互いを最高と認め合う、相思相愛の仲なのだ。
* * *
色褪せぬ想いだけが できることが何処かにある
誰もが長い人生の中で、いくつもの想いが破れ、みじめな思いを味わってきた。
それでもなお、彼らの歌にファンははげまされる。これから何度夢が破れ、何度みじめになっても、その度にaccessの歌はファンの心に、優しく寄り添う。はじめてaccessをきいたときと同じように。
彼らの歌は決して、誰ひとり置いてきぼりにはしない。
本ツアーはまさに「ファンの心に寄り添う」構成とアレンジだった。
胸が高鳴り、感動し、勇気づけられる これぞ音楽、これぞライブ。彼らの提示した世界観は、オーディエンスの心に深く根ざし、温めつづけるだろう。
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